オフィス移転や店舗の開業にあたって、物件を訪問して貸室を確認することを「内見(ないけん)」といいます。物件資料だけでは分からない周辺環境や建物の状況を知ることができる大切な機会になります。オフィス移転や店舗の開設をする場合の契約条件に、引き渡し状態が『現況』という記載があります。それが何を意味するかというと、広さや設備は現地にある通りなので、しっかり確認してくださいねという意味です。そういう意味でも、内見は大切です。大げさな話ではなく、見て図ってみないと正確な情報はわかりません。
提案された物件を選定し、実際に建物を内見、最終決定する際に思い出してほしいのが、最初に明確化した移転理由です。多くの物件を見る中で、周辺の景色や当日の気分、さらには天気などといった外部要因から、どうしても人間の判断基準はゆらぎやすくなります。
目的を満たしうる物件か、あらためて確認することが大切です。移転後をイメージしながら最終判断を下しましょう。
そのうえで、内見時には賃貸住宅を探す時と同様に、細かいチェックも必要となります。
寸法は、借りたいという物件の目途が付いたら必ず現地で実測をするようにしてください。図面に記載されてある広さは正確だと思ってしまいますが、面積の算定方法はオーナーにより様々な採寸がされていることもあり、必ず現地で確認をする必要がある項目です。
面積表記について
グロス・G | 水まわりや共用部を含む面積 |
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ネット・N・NET | 実際に使用可能な水回りを省いた面積 |
不動産図面の中で、カタカナでグロス・Gなどと記載のあるいわゆるグロス面積というのは、水まわりや共用部を含む面積をいいます。ネット・N・NETなどの記載のあるネット面積というのは、実際に使用可能な水回りを省いた面積をいいます。また、梁をどう算定するか、壁をどのように算定するかでも面積は変わってきます。
また、募集図面に記載されていない機器設備などにより実際に利用できる面積に差が出る為、記載されている面積は目安として、レイアウト作成の際は、実際の寸法を現地で測るようにしましょう。
天井の高さも図面に書かれていることがありますが、一番高いところを記載する場合・一番低いところを記載する場合、平均をとる場合など、図面からではなかなか判断つかない要素の一つです。
なお天井を抜いたオフィスがありますが、その場合現在設置されている天井のその上にどのような空間があるか現地で確認をする必要があります。
天井高が低いと労働安全衛生法に定められた必要気積をクリアできず使用可能な従業員数に制限が出る可能性もあります。とくに、コールセンターなどの利用の場合は、情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインもあり、実稼働に制限が出る場合もありますので気を付けてください。
採光面の広さは空間の解放感に大きな影響を及ぼします。また、窓の位置により壁を建てる位置が決まってきたり、棚を設置する場所が決まってきたりします。図面では窓までしっかりと記載されていることはまれなので、現地で確認をすることが必要です。都心部では窓が隣のビルと隣接しているということも少なくありません、そのような情報も現地に行かないと分からない内容です。
空調の位置は変えることもできますが、移設には費用が発生します。また、新規設置が必要な場合も費用が発生します。空調の追加は高コストとなるため、どのくらいの期間借りるオフィスを利用するかも含めて、検討が必要になってくると思われます。
募集図面には、貸室の図面しか掲載されていないことがよくあります。その場合、共用部がどうなっているかが分かりません。共用部の作りによって、専有部のエントランスをどのように作るのかという話にもなりますので、共用部も内見時に確認を行いたいポイントです。
トイレの状態も、同じくビルの管理意識が良く現れるとともに、社員が必ず利用するものですので優先的に確認しましょう。男女トイレが一緒の運用で許容できるか、社内のメンバーに確認をする必要が出るかもしれません。ちなみに、和式、洋式、ウオッシュレットなど、トイレについての要望は、入居時の交渉で対応してくれることもあります。自費で和式から洋式に変更するという工事は、原状回復工事の対象にもなるため、事前の調整が好ましいでしょう。
コンクリートの寿命は数十年から100年を超える場合もありますが、給排水のような設備はメンテナンス状況により、老朽化のスピードが激しい箇所です。水道設備などの整備状況や検査状況が分かれば安心できると思うので、築年数がたっているビルでは確認をした方が良いかもしれません。
オフィスビルでも、大型の印刷機械や特殊な機械を設置する場合など、電気容量の問題が発生することがあります。多くのオフィスビルでは、各階ごとに分電盤が設置され、階ごとに使用可能な電気容量が決まっています。電気容量はビル全体の容量を、各階に分配しており、増やすためにはビル全体の電気設備に係る工事が必要となることがあります。キュービクルの増設が必要かもしれないと言われたら、ビル全体の電気容量が足らないと思ってよいです。
通常オフィスでも、電気容量が足らなくなる場合があります。特に、大型ビルから小規模ビルへの縮小移転時には、当たり前の基準が異なっています。
オフィスだとしても、印刷機・パソコンの台数・空調機などの台数で電気容量が足らなくなることがあるので、契約を結ぶ前に確認をしておくとよいでしょう。
また、通信設備も同じく、光ファイバー位引けると確認をせず契約をした後に、ADSLしか対応しない、また、思った速度の光ファイバーが引けない、キャリアが限定されており、VPNが結べないなどの問題が発生することがあります。
ビルの規模やオーナーの意向によっては、スプリンクラーが設置されているビルがあります。スプリンクラーが設置されているビルに会議室や社長室のような個室を設ける際には、散水障害が発生しないようにスプリンクラーの増移設が必要ですが、非常に高額な可能性があります。
内見・下見の際には、スプリンクラーの有無を確認し、設置されている場合には早めに設計会社および工事会社に相談しましょう。
オフィスビルの場合、ビル入居者向けの共用施設として会議室や喫煙スペースが設置されているビルもあります。コストをかけて自社内に造作せずとも、ビルの付帯設備を積極的に活用することで効率的なオフィス活用につなげられます。
1フロア1テナント型のビルなどでは、あまり必要性を感じないかもしれませんが、同じビルに入居しているテナントの確認は、選定にあたって重要なチェック項目になります。
入居後の企業イメージを左右するのはもちろん、入居テナントの業種などで、オーナーの審査基準が読み取れる場合があります。堅い企業や大手関係の企業が多ければ、厳格な審査を、そうでなければ比較的緩い審査といえるでしょう。少し緩そうだな・・・と感じる場合は、自社が入った後々のことまで考えた方がよいでしょう。
他にも違うフロアだから関係ない、とは言えない直接的な影響を受けるケースがいくつかあります。
例えば、学習塾が入っているビルの場合、あなたの会社の大事なお客様が、わいわいと騒ぐ子供達と一緒のエレベーターに乗る可能性があります。また、飲食店やアロマセラピー系のテナントの場合は、臭いに悩まされる可能性もあります。複数階に入居しているテナントがいる場合は、エレベーターの待ち時間に悩まされるかもしれません。
中小規模ビルの場合は、意外とこれらのケースが多くありますので、注意を払うに越したことはありません。
物件資料に記載されている最寄り駅や徒歩時間は、地図の最短ルートないし直線距離で算出されているため、交差点・信号の有無や坂道などの影響で、実際の時間と異なるケースが散見されます。内見・下見をする際には、必ず最寄り駅から実際に歩いてみるようにしましょう。
周辺環境も快適なオフィス生活には重要な要素であり、内見・下見時または契約までの検討期間で確認しましょう。コンビニや飲食店の豊富さ、緑のある公園などが充実していると従業員の満足度につながります。
近年は地図アプリで周辺の様子を確認することもできます。しかし騒音や臭い、周辺の雰囲気はやはり実際に行って感じてみなければわからないものです。
また、営業系の会社では駅までのルートのチェック、クリエイティブな仕事が多い企業では、周辺の騒音環境などにも気を配るなど、自社の特性にあわせた確認も行いましょう。
また、内見後でも良いですが、
ビルエントランスの解放時間、入退室が可能な時間、清掃範囲・条件など、入居後にオフィスを健全に運用するために必要な情報は、物件資料にはあまり記載されません。内見・下見時に、ビル担当者への確認を忘れないようにしましょう。
24時間稼働や土日のオフィス利用など、すでに絶対に欠かすことのできない要件が定まっている場合には、不動産仲介会社に物件資料を要望する段階でスクリーニングを依頼しましょう。